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ロシアの移転価格税制の変更法案について
2023年11月20日
関連者・関連者間取引の定義の拡大
法案によれば、株式保有および(または)経営への参加を通じて特殊関係にある法人の定義が拡大されます。
- 関連者の定義に、ある法人の25% を超える株式を保有している個人が、会社の社長を任命する権限または少なくとも 50% の取締役を任命する権限を有し、かつ、その個人と税法第 105.1 条 11.2 項に準じて関連者とみなされる別の個人が、別法人のそのような株式保有または執行機関の任命権を有する場合、それらの法人も関連者とみなされること。
- 法人格のない外国の団体との取引で、その団体がオフショアに登録されている場合、またはその団体の出資者の1人がオフショアに登録されている場合、法人格のない外国の団体との取引は関連者間取引とみなされること。
また同時に、移転価格税制の対象外の取引リストも拡大されしており、特に、以下は対象外となります。
- 租税条約 が停止されている国の外国輸出信用機関および銀行との取引で、一定要件を満たす場合
- 税法第 310 条 2. 8 項に規定される債務が発生している取引
- 租税条約 が停止されている国の居住者との取引。ただし、当該取引の契約が 2022年3月1日より前に締結されており、当該取引で使用される価格決定手順および/または価格設定方法 が 2022年3月1日以降も変更されていないこと、かつ取引は、2022年3月1日時点の税法第 105.14号1項と3項の規定に準拠していること。
第二次調整のメカニズム
関連者間の取引価格が独立企業間価格でないために、課税ベース(資産)がロシア国外にシフトされた場合、源泉税を通じた第二次調整を適用するメカニズムが導入されます。
また納税者が、対象取引が行われた期間の法人利潤税を支払う前に自ら課税ベースの調整を行い、かつ資産がロシアに返還された場合、第二次調整は免除されます。
他方、納税者が対象取引が行われた期間の法人利潤税の支払後に自ら調整を行い、資産が払い戻された場合、税法第105.17条に基づく税務調査の前であれば、一日あたり中銀のキー・レートの1/300の利率で日割りで利息を営業外利益に計上することを前提に、第二次調整は免除されます。
独立企業間価格/利益率の範囲の計算方法と情報源
たとえば、現在の税法第 105.9 条6 項では、同一 (同種) の商品(作業、サービス)の価格 (価格範囲) に関するデータを専門の情報提供機関や証券取引所から入手してCUP法を適用する場合、比較可能な条件下で同じ期間に行われた取引価格の最低値と最高値をとることが規定されています。法案では、この税法第 105.9 条 6 項を廃止。その結果、専門の情報提供機関や証券取引所のデータに基づく独立企業間価格の範囲の計算は、税法第105.8条に基づく一般規則に準拠します。つまり、価格範囲が狭められます。
また独立企業間価格の範囲の算出にあたっては、納税者だけでなく、関連者間取引の取引相手による独立第三者との比較対象取引の情報も利用することが可能となります。ただし、そのような取引が分析された関連者間取引と同等であると認識できることが条件です。
「独立企業間価格の中央値/利益率の範囲」の概念が導入
移転価格の税務調査の結果、税務署が課税ベースを調整する場合、その調整は、独立企業間価格/利益率のレンジの最高値や最低値ではなく、中央値を参照して調整が行われます。
他方、納税者が自ら調整を行う場合は、独立企業間価格/利益率のレンジ内であれば、どの値を使用しても構いません。
多国籍企業グループ(「MNEグループ」)と認定される場合の基準が変更
税法第 105 条16 .1 . 1 項を修正し、一連の企業について、連結財務諸表が法律の要件によって作成されている場合、または、それらの法人および/もしくは外国の法人各を有しない団体の証券が証券取引所(外国証券取引所)で取引されている為に連結財務諸表が作成されている場合、 それらの企業は MNE グループとみなされ開示義務が生じます。この変更により、より多くの納税者がMNEグループと認定される可能性があります。
開示要件の大幅な拡大
移転価格文書
関連者間取引に関する移転価格文書の内容が変更され、特に、関連者間取引が締結された期間における、取引先である外国の関連者の収入と経費、従業員数、利益(損失)、固定資産及び無形資産の価値に関する情報が含められます。
同時に、関連者間取引の外国の関連者の財務諸表をはじめ機能分析を裏付ける文書の作成を要求しています。それらの財務諸表を移転価格文書と一緒に提出できない場合には、関連者間取引が締結された会計年度末から12ヶ月以内に提出しなければなりません。
また、移転価格文書には、関連者間取引と比較対象取引との類似性を確保するために、財務上及び/又は商業上の取引条件について実施した調整の説明を含める必要があります。
さらに関連者間取引が締結された時点で納税者に提供された、外国の関連者の登記情報及び法人代表者の詳細が記載された書類の添付も必要です。
また移転価格の税務調査の枠外で、納税者が税法第 105.15 条に規定された書類を税務署に提出することを義務化することも提案されています。
税法第 105 条第14 .5項に規定されているコモディティ(商品)の貿易取引を行う納税者については、関連者間取引の届出の際、移転価格文書を提出することが義務づけられる予定です。これらのコモディティ取引に関する2024年分の移転価格文書は、2025年12月1日までに提出することができます。
関連者間取引の届出
関連者間取引の届出において開示すべき情報の範囲が拡大されます。
具体的には、物に係る取引の場合、引渡基準、物の出荷日(物品の所有権の移転日、取引に係る売上と経費の認識日)、使用した移転価格の算定方法に関する情報、比較対象取引の情報源等の開示が必要になります。
さらに、税法第 105 条14 .5 項に規定されるコモディティを含む取引の場合、関連者間取引の届出時に、そのコモディティの再販取引および/または先行する仕入取引に関する情報を含めることが義務付けられます。
取引相手が独立第三者であり、届出書に記載するために必要な情報の提供を拒否された場合には、その状況を連邦税務署に知らせる必要があります。
MNEグループの外国の構成メンバーの財務諸表
法案は、MNEグループに対し構成企業の中に税法第105.14条5項に規定されるコモディティ(商品)を取り扱っている場合にはロシアの納税者でない外国の構成企業の財務諸表を提出する義務を課しています。
具体的には、MNEグループの構成企業の一社がその資産の50% 以上をロシア国内に保有し、税法第105.14条5項に規定される商品を関連者に売買した場合、当該MNEグループの親会社は、連結財務諸表および当該関連者間取引を行った、または当該商品に関連するサービス(運送、保管、梱包、保険、融資、マーケティング、その他のサービス)を提供した外国の構成員の財務諸表を提出しなければなりません。財務諸表は、会計年度末から12ヶ月以内に電子形式で提供が必要です。
また、MNEグループの親会社またはMNEグループを代表するものがロシアの税務上の居住者であることを自主的に宣言したロシア法人または外国法人である場合、移転価格の税務調査の枠外で、ロシアの税務上の居住者でないMNEグループの構成企業の取引に関する情報(文書)の提供を要求される場合があることにも留意する必要があります。
事前確認制度(APA)締結プロセスの変更
APAの締結に関する規則の利用を促進しています。特に、税法第 105 条14 .5 項に規定されているコモディティ(商品)の関連者間取引が暦年で20 億ルーブルを超える場合、その納税者がAPAを利用できるようになります。
また、APA の対象期間を 5 年間まで延長し、その期間にAPA が申請された年の2年前まで含めることができるようになります。ただし、二国間APAについては、過去の期間を含めることはできません。
またAPAの申請費用は、2百万ルーブルから百万ルーブルに引き下げられます。
移転価格税制違反の罰則が強化
移転価格税制違反に対する新たな罰則が導入され、既存の罰則も強化されます。
この変更は主に、関連者間との商業上及び/又は金融上の取引条件が、独立企業間価格でないために税金の不払い又は過少納付が発生した場合の罰金に影響します。
罰金は、税法第 105 .3条6.1 項に規定される所得に対する未納税額の 100%、但し50 万ルーブルを下回らないこと。ただし、この変更はクロスボーダーの関連者間取引にのみ適用されます。また罰則は、税務調査の結果に基づき、課されます。
あらゆる種類の報告書(関連者間取引の届出、移転価格文書、国別報告書)の未提出、またはそのような報告書に不正確な情報が記載された場合の罰則金も大幅に引き上げられます。例えば、関連者間取引の届出の未提出の罰金は5,000ルーブルから100,000ルーブルに引き上げられ、MNEグループの構成員である旨の届出の未提出の罰則金は50,000ルーブルから500,000ルーブルに引き上げられます。その他の種類の届出については、さらに大幅な引き上げが提案されており、最高で100万ルーブルに達します。
また、移転価格文書の未提出に50万ルーブル(1件の取引ごとまたは類似の取引グループごと)の罰則金を導入しています。さらに、MNEグループ内の外国の関連企業の財務諸表の未提出には100万ルーブルの罰則金が導入されます。
法案では、納税者が関連者間取引の価格が独立企業間価格であることを証明する書類を提出した場合、納税者が罰金を免除されるという規定を制限し、そのような免除はロシア国内取引にのみ適用することが提案されています。
税法第 269 条の改正
税法第 269 条に関連者間取引における利息と支払い利子が独立企業間価格とみなされる範囲(「セーフハーバー」ルール)が規定されていますが、2024年1月1日以降、次の通り変更される予定です。
ルーブル建て金利 | 中銀キーレートの 10% から150% 。 但し、最低金利は2% |
ユーロ建て金利 | €STR + 1% から7% |
中国人民元建て金利 | SHIBOR + 1% から7% |
ポンド建て金利 | SONIA + 1% から7% |
スイスフラン建て金利 | SARON + 1% から5% |
円建て金利 | TONAR + 1% から5% |
その他の通貨建て金利 | 米ドル建てSOFR + 1% から7% |
その他の変更
移転価格の税務調査の対象期間
また、「税法第 105 条の改正に関する法律案」によって提案された改正により、移転価格の税務調査は、関連者間取引の届出が提出された日や税務署から通知を受け取った日に関係なく、税務調査の実施を 決定した年の前年の3年間に締結された関連者間取引を調査することができるようになります。
地方税務署の 移転価格の税務調査への参加
法案では、連邦税務署は、地方税務署の職員に移転価格の税務調査への参加を要請することを認めています。
結論
移転価格税制について予想される変更点が多いこから次のことをお勧めします。
- 関連者との取引価格と独立企業間価格・利益率の差がある場合、罰則金が増加することから、移転価格税制の違反となるリスクを分析すること。
- 税務署あて追加で提出が必要となる移転価格の文書や情報について、準備が必要となる情報を洗い出し、提出書式をきめること
- 御社がMNEグループに該当するかどうかを判断し、必要に応じて国別報告書の準備を開始ること
- グループ内の金融取引の金利を修正する必要があるかどうかを分析すること
- CUP法において証券取引所や情報専門機関からのデータを利用している場合、リスクを査定すること
- 関連者取引金額が大きいことおよび/または重大なリスクが存在する場合には、APAを検討すること
この移転価格税制改正の概要はいくつかの法案を参考に作成されたものですので、さらなる改正が行われる可能性があります。いずれにせよロシアの移転価格税制が大きく変更されることは明らかです。B1は、法案に記載されている変更の影響を分析し、あらゆる種類の 移転価格の報告書を作成する際に、包括的なサポートをご提供可能です。